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- JNCCシリーズのなかでも難易度が高くタフなレースとして長年定着しているのがワイルドボア鈴蘭だ。 ワイルドボア 、つまり野生のイノシシが闊歩するような岐阜県鈴蘭高原にあるスキー場の跡地。2011年に初開催された際も取材と参戦で訪れたが現在とはスタートエリアが異なり、またスキー場施設の建物も残っていた時代。いまでは想像もできないが、当時はコンクリスタートで一斉に駆け抜け現在の本部付近の駐車場エリアを経由してからゲレンデに突入する強烈なレイアウトだった。ゲレンデも相当荒れていて、ライダーたちを興奮させた。なにしろ営業をしていないスキー場であるので路面はその当時から荒れており、「 オロチ 」と呼ばれるガレ場や急斜面のくだり坂、水切りなどは初年度から鈴蘭の名物セクションとして強烈な印象を残した。このコースを一度でも走ったことがある人なら、その強烈さは脳にインプットされているはずだ。かくいう筆者も数回このラウンドに参戦しているが、かなりのインパクトを記憶に残している。
- さて、今年も鈴蘭はトップライダーたちを翻弄した。午前中におこなわれたFUN-GPでは 最上位クラスのFUN-Aライダー 達を FUN-Bクラスのライダー達が上回る成績を残すという波乱があった。
- そしてCOMP-GP。「サザンハリケーン大阪」「ビックディア広島」に続く3回めの参戦となった #23 ステファン・グランキスト 選手(BIVOUAC大阪)に JNCCトップライダーがどう対峙するのか注目された一戦。
- オープニングラップから気を吐いたのはグランキスト選手だった! オーストラリア出身のベテランライダーは、この荒れた鈴蘭では過去2回の参戦以上に生き生きとして見えた。ガレ場のセクション「 オロチ 」では右端ラインをメインに走行していたが、周回遅れのライダーが詰まっているのを見ると迷わずにガレているセンター付近を駆け上った。 日本人ライダーの誰もが左か右端のラインしか走らず(走れず)、まともに考えれば選ぶわけもないと言えるほどガレていたセンター部を余裕で登ってきたのを目撃した取材班は、もう笑うしかなかった。
- レースは2番手以下のライダー達が白熱のバトルを展開した。
- #5 馬場大貴 選手(YSP浜松 with BABANASHOX)、#8 矢野和都 選手(RG3 Racing)、#12 熱田孝高 選手(BIVOUAC大阪 with RG3 Racing)がほぼ同時にオロチに突入するような距離感。そして彼らをすぐ後ろから見ながら上位進出を狙っていたのが前戦ビッグバード高井富士で今季初優勝した #1 渡辺 学 選手(bLU cRU TwisterRacing)だ。渡辺選手はスタートでエンジン始動が遅れて後方からの追い上げを余儀無くされたが、確実に順位をあげていく。
- レースは後半になるにつれて、グランキスト選手、渡辺選手、馬場選手の3名に優勝者が絞られていくようになる。 変化が生じたのは終盤の9周目以降、疲労がたまりグランキスト選手のペースが落ちてきたのを見逃さなかった二人。しかし渡辺選手と馬場選手には大きな差が生じていた。
- レース中盤に2番手に上がったものの前半の日本人バトルで体力を消耗した馬場選手は、終盤に2番手を走行していたグランキスト選手が燃料補給にピットインしたこともあり急接近、追い上げを試みるもののスタミナを奪われてペースが上がらず3位フィニッシュとなった。レース後馬場選手は「疲労をしてもペースをあげる強さが必要だった」と振り返っている。
- 一方、史上最多6度のJNCCチャンピオンとしての意地を見せたのが渡辺選手。
- ラスト1時間でトップの選手が視界に入り「これは勝ちたい!」と強く感じたという。そしてラスト3周で逆転トップへ、そのまま危なげなく今季2勝目を飾ったのだ!!
- 「勝因は下見にしっかり時間をかけたことです。最近考え方を変えていて、いままでは『みんなが通るところ=最速ライン』と捉えていたんですが、いまは誰も通らないところを一人で走るほうが結果として速いだろうと思うようになっているんです。今回も最初から最後まで 誰も走っていないラインを使いました。ここだけを見ると最速ラインではないですけど、周回遅れのライダーがいても影響がない。下りでは大貴が速くて周回遅れの方の処理で差が詰まる。こういうときに無理して抜こうとすると転ぶことが多かったので、ミスを無くそうという考えなんです。」と話してくれた。
- 「この勝利は本当に嬉しい! 優勝で25ポイントをとったことよりもグランキスト選手に勝てたことのほうが大きいんです!」と、本人もやや興奮気味に語る。チェッカーを受けた渡辺選手は馬庭メカとハイタッチして、普段以上に喜びをあらわにしたのだった。
- ライバル達への強烈なパンチとなったこの2連勝。開幕からの2連戦で遅れたチャンプがここにきて強力な存在として存在感を解き放っている。 渡辺選手は JNCCビッグバード、本大会一週間前におこなわれたJEC広島、そしてJNCC鈴蘭で3連勝と絶好調である。 マディで完走率55%という過酷なコンディションとなったJEC広島での勝利は、JNCCで培われた渋滞回避や悪コンディションでの走破力、スピードなどを磨き上げた結果だとも言える。そして、そんな渡辺選手を支えている馬庭メカの存在の大きさも書き留めておきたい。JEC広島に自らもIBクラスで参戦した馬庭メカは、帰宅後 中3日という僅かな時間で渡辺選手 本番マシンのエンジンオーバーホールを行い、完璧なまでに仕上げて来ていた。そんな馬庭メカはいつでも涼しい顔をしてメカ業をこなし、FUN-Bクラスで9位入賞も果たしていたりするので、驚かされることが多いのだ。
- さて、勝利に飢えた元王者の馬場選手。「中盤でトップに上がれたけど転倒したり疲労で順位を下げてしまいました。もっと練習しないと」と語る馬場選手だが、JNCC 成田 亮 氏は前戦までの走りからの違いや相当調子をあげてきたことを感じとり、マイクで本人に尋ねた。 馬場選手は雨の中で練習していたことを言及。そして、そんな馬場選手が牽引するモトクロスチーム員の一人、COMP-Aクラス #179 町田旺郷 選手(YSP浜松 with BABANASHOX)がクラス初優勝を飾った。町田選手は前回出場時の広島でのトップから3位へ後退した悔しさをバネに、サスペンションの仕様を変えるなど対策を施して乗り込み、見事勝利を飾ったのだった。
- タフな鈴蘭、熱田孝高 選手はラスト3周でチェーンガイドを破損し、AA2クラスの #05 松尾英之 選手(FFF Racing with DIRTFREAK)はラジエタークーラント漏れによるエンジン焼きつきリタイアなど、悔しい思いを味わったライダーも多い。 次回第6戦「MIAスキーリゾート」では、いったいどんなドラマが生まれるのか? 早くもシーズン折り返しとなる第6戦が今から待ちきれない。
- トップグループを走りながらも冷静さを失わずに戦い抜いたチャンプ 渡辺 学 選手。前戦ビッグバードは序盤に一気にスパートをかけたが、本戦は終盤での粘り強さで勝利を掴んだ。
- 各クラスの勝者には三河フランクから巨大ベーコンが進呈され、もちろん渡辺選手もGET!
- ギャラリーが見守るなか、危なげない走りで SHOW TIME をクリアした グランキスト選手。
- 「 オロチ 」のベストラインが詰まっているのを見ると、グランキスト選手は迷わず中央のガレ帯に突入。何事もなくクリアしていったのはさすがとしか言いようがなかった!
- JNCCでは珍しく超接近戦が長い時間展開した。馬場選手の背後に矢野選手、そして彼らを後ろから冷静にチェックしている渡辺選手がいた。
- SHOW TIME の鮮やかなクリアで注目された馬場選手。手前の溝をフロントアップでクリアし助走をつけて車体を押しつけるようにして加速。その反動を利用し途中にあるギャップをジャンプしてクリア!
- 勝利まで届かなかったが調子をあげてきている馬場選手(写真左)に、矢野選手(写真右)は上位3人の速さに今大会は潔く負けを認めた。この2人のバトルは サザン大阪 に続いて熱を帯びていた!
- モトクロス出身ライダーのジャンプ適応力は高い、渡辺選手や矢野選手もまた SHOW TIME を飛んでクリア!
- 渡辺選手の強さが垣間見えた瞬間、前をいく矢野選手のラインから瞬時に外れてアウトから横に並ぼうとした! 「人と違うライン」を選ぶことが現在の渡辺選手の戦い方となっている。
- 一時は2番手を走行していた熱田選手だが、ラスト3周でチェーンガイドを破損するトラブルに見舞われた。自身の走りに納得のいかない様子で帰還。
- AAライダーとして5戦めを迎えた 渡辺敬太 選手(BETA FULL GAS Racing & フレアライン)。渡辺選手と同様の13周を走りきり、堂々のクラス2位を獲得!
- 鈴蘭は毎年2回開催してほしいという 齋藤祐太朗 選手(Wise Beta Racing)は総合6位。「レース終盤はサウナで整うような気持ち良さを味わいました」と表現。
- 「今回は自分の走りができず情けない」と表彰式で語った 鈴木健二 選手(bLU cRU Blue Riders with YAMALUBE)だが、フィニッシュ直前の水切りの豪快なフロントアップ超えなど、瞬間的なキレの良さは健在!
- レース開始1時間くらいまでは、かつてないほどの腕上がりに襲われたという 小林雅人 選手(FLAIRLINE&X-PARK勝沼)だが、「僕ももう1回くらい鈴蘭開催があってもいい」と、難所好きなライダーらしい発言を。
- 馬場選手の元で走るモトクロスIAライダーの町田選手は前回 ビックディア広島 の3位後退という反省を踏まえて、「落ち着きつつ攻めるところは攻めることを意識」して、COMP-Aクラス優勝を果たした。次戦 MAIA も参戦予定との事。
- レジェンドクラスは1名のみの参加だったが、#1 松村 昇 選手(ユウキレーシング)が完走。「普段乗っているバイクが壊れたので急遽古いYZ250で出たら3コーナーでアクセルが張り付いて全開、死ぬところでした(笑)が、なんとか3周走れました。」
- 昨年3人目のお子さんが誕生したという #381 伊藤 亮 選手(TEAM TRY)は、COMP-Bクラスで若手の 橋本大喜 選手を抑えて優勝。「一年おやすみしてましたが、やっと勝てるところまできて嬉しいです!」
- ビッグバードに続きCOMP-Rクラス優勝の #512 松村直人 選手(MMC with ゆるオフ酒部)。「総合22位でしたが10位台には入りたかったです、どんなコースでも速く走るための練習が必要ですね。」
- 久々出場の #184 は、ロッシこと 伊佐治 博 選手(チームベータ飯塚 IRCエンジョイズ & 男汁スギちゃん)はCOMP-Aクラス7位。ハードエンデューロ系のライダーにも人気が高いのが、ここ鈴蘭なのだ。
- ひときわ速いXRがオロチを駆け上っていく。誰かと思えばCOMP-Aクラス4位は #06 山西利康 選手(フレアライン)だった。チームメンバーの #125 田中大貴 選手に旧車で勝ち、したり顔(笑)
- ハードな鈴蘭で光る & 魅せるテクニック! #126 大月栄二( オシャレイカチ & モトピットヒオキ & MC JAPAN)は COMP-Aクラス2位。「4年くらい鈴蘭ではCRF125Fで走っていましたけど、フルサイズはめちゃくちゃ楽でした(笑)」
- COMP-GP終了直後の “ホッテストアワード” 。次戦 MAIA は誰がこの栄誉ある表彰を受けるのか、注目したい!